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俺と娘

娘は何か退屈そうなので一緒にコンビニに行き長持ちしそうなスナック菓子を買い与えた。娘はスナック菓子を食いながらNHK教育を見ていて大変機嫌がよろしい。「CDプレーヤーにアナログカセットを刺して再生ボタンを中途半端に押すと音楽が超スピードで再生されて楽しいのだよ」と教えてあげたら我を忘れてその遊びに耽っていて楽しそうで良い。健康に配慮して買い置いた1リットルペットボトルの野菜ジュースを500ミリリットルくらい飲んでやがったので頭にきた。「これは一度に沢山飲んだりという使い方ではないのだ」と教えるも俺の言ってることが理解できていないようで悲しそうにしているので許してあげて「残りも全部飲んでいいや」と言ったら嬉しそうに全部飲んでいた。普通はそこで気を使うものだがさすがに子供である。「ピアスの穴を空けると視神経がはみ出て失明するのだ」などと嘘ばかり並べて立てると娘は心底恐れおののいていたので将来ピアッシングをしない女性に育つやもしれん。

とりあえず部屋に娘のお気に召すような書籍が無いので本屋に行き自由に選ばせてみる。 真っ先にハリーポッターを持ってきたのでそれは子供は読めない本だと教えてやる。次に千と千尋の神隠しをリクエストされたのでフィルムブックを揃えてやる。かなり嬉しそうに見える。「赤くなくて良かったな」などと憎まれ口を言ってやったが娘は何を言われているのか分からないといった風に見えた。

娘はケンタッキーのチキンを貪り食いながらフィルムブックを読んでいる。子供舌にはコイツが持ってこいだ、という俺の目論見は的を射ていたということだ。娘はケンタッキーを食いながらコーラが飲みたいなどと言っていて、そこまで米国におもねった要求をされると先行きが不安であるが別に禁止する理由も無いのでコーラを許可した。あまり積極的に皮下脂肪を蓄えられるのも困るので食生活には色々口出しはしたいが今日一日くらいは別に構わないであろう。存分に味わってくれその子供舌で。夕方パスタを茹でてみる。ヤツの子供舌を考慮するに、やはりミートソースギトギトな子供仕様のがベストなのであろう。だが今日一日で肥満原因要素を与えすぎではあるまいかと考える。考えたあと、油や塩コショウや茸のパスタを食わせることにする。想像通りヤツの舌には合わなかったらしく、食いながらのテンションの低さには驚いた。シバキ倒してもお釣りが貰えそうだと思ったが「そんな不味そうに食わないでくれまいか?」とやんわり諭すに留めた。「俺のパスタが劣っているのではなくてお前の子供舌の方に原因はあるのだぞ」と喉まで出掛かったがそれも飲み込んだ。今度からはもう少し美味しいのを作るよ」と言ってやった。

妻が明日、やっと旅行から帰る。それまでの辛抱だ。

娘とファミリーレストランへ行く。ナイフとフォークの使い方を教えてやる。「今後ナイフとフォークの扱いを間違っている奴がいたら蔑め。」を適当なことを言っておいた。嫌な人間に育つかもしれない。子供というものは本当に心底ジュースを好むので驚く。一通りのジュースを飲み終わると違う種類のジュースを混ぜ合わせて遊んだりしだしたので腹が立って「俺はそういうのは嫌いだからやめろ」と言ってやった。夕飯を作るのが億劫で、夜もファミレスに行く。コイツは今日一日でどれだけのジュースを飲んだのか。普段は嫁に「ジュースは一日コップ一杯」などと制限されているのでその失われた日々を取り返そうとしてるのであろうか。まあ、せいぜい頑張って欲しい。

妻が旅行から帰る。

娘と一緒に風呂に入る時にタオルで前を隠しながら入らねばならず何で家風呂なのにこんなことをしなきゃならないのかと不愉快だったのが解消されるのが嬉しい。妻は俺が娘に何を食わせていたのかを凄く心配している。まあ恐らく妻の想像通りの余りよろしくないものばかりを与えていたよ俺は。だがそれは同時に娘が望んだ食物でもあるのだ。そしてそれは娘が俺のことを、好きな食べ物を食わせてくれる人間と認識してくれるように、というものであったのであろうし、娘内での俺の株を上げようという魂胆もあったのであろう。まあ一先ず一仕事終えたということで今日は妻の手料理を食べて娘の相手を少しして風呂に入る。俺が風呂に入っている間、二人は俺の陰口でも叩いているのであろうか。陰口というか、俺の留守番の健闘を称えるように話してもらいたい、それならば嬉しい、などと思った。

娘に習い事をさせる。娘はピアノを習いたいと言うので「なまじピアノが弾けると学校祭の合唱でピアノ係にさせられて面倒だからやめろ」と言う。「俺は新体操やってる女性が好きなのでお前は体操スクールへ行け」と言う。嫁は習い事なんてどうでもいいと思っているので俺の一存で決める。最寄りの体操スクールへ娘と見学に行く。皆、宙返りの練習をしていた。「宙返りができるのはいいぞ。お前も宙返りがしたいだろう」と言うも娘の反応は今ひとつだった。「マイナースポーツを幼い頃からやっていると色々と選抜大会とかに出れて楽しいのだ。それはメジャースポーツでは味わえない楽しさなのだ。才能の有る無しに関わらずマイナースポーツを小さい頃にやっていると選手層が薄いので結構でかい大会に出れるのだ」と言った。娘の反応はイマイチだったが娘には内緒で申し込んでおいた。

娘がポケットモンスターに反応しているので「外来語に惑わされるな。化け物は化け物だ」と言ってみる。も、あまり適当なことしか言わないのもなんだと思い少し真面目にしてみたくなり、「ピカチュウはライチュウになる。ミューは強い」と言うと娘は気分よく対応してくれたので調子に乗り「ポケットモンスター初代がまだ売れてない頃ファミ通の忍者増田が布教してた。いや、ログインだっけ?」とか言ってたら妻が目で合図したので「ミューツーは逆襲するんだよね」と言った。

「形にこそ魂がやどるのだ、日本では。」妻は俺のアドリブ会話に慣れきってしまい軽くあしらうので最近は娘に話してばかりだ。「首の後ろを洗わないとシャツの襟が汚れるから注意するのとフスマの敷居を踏むなというのは一見似てるけと敷居はそんなにヤワじゃないから多分これはマナーの話だ。いや、毎日踏んでると痛むな。踏んじゃいけない。あと薬飲むときにジュースで飲んでも平気らしいよ。」最近は娘も妻の真似をしだして弱っている。機嫌を取ろうとロケット団ニャーと言ったらテンションが上がった風なので「小さい頃地元で毛利名人のことをモリ名人って発音してたから、高橋名人対森名人だと思ってた。あと俺は少年アシベと南国少年パプワくんの作者が同一人物だというデマを広めた。」と言いながら酒を飲む。

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