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キールとカベオ2

この世界は全てが歪んでいる。キールはそう思った。立ち向かうには自分では幼すぎる。必要なのは相棒。カベオなら、カベオのもつ特殊な能力でなら戦える。歪んだ世界に殺されるくらいなら、なりふり構わず戦ってやる。キールがそう決意した頃、カベオは尿意を我慢していた。

まずは数字だ。1分は60秒。これは60進数。1日は12時間が二回。これは12進数。そしてAからFまでを使う16進数。ケージジョーでは16進数のみを使う。文献でしか知らない知識を動員して、キールは世界の歪みを捉え直そうとした。その為には10進数の世界からきたカベオが鍵になる。

タキシードに着替えたカベオはキールと共に幼稚園を後にした。キールは思った。私もケージカ、ブツリの世界を覗いてみたい。カベオの埋まっていた穴から、もしかしたらいけるのではないだろうか?その事をカベオに話すと、まあキールがそう言うならそうした方が良いんじゃないかな、と応えた。

二人はケージ、つまりケージジョーとケージカを分断する壁の前で立ち止まった。もうママには会えないかもしれない。そう思ったキールは胸が一杯になった。それでも狂った世界から抜け出したい。その一心でカベオに言った。何かあった時は助けてね、カベオ。カベオは鼻抜け声でウンと応えた。

時はきた。カベオの埋まっていた穴の向こうは極彩色に輝いていた。カベオがいる、カベオがいる、カベオがいる、三回唱えたあと、キールは穴の向こうに飛び込んだ。ケージカ、ブツリの世界。ボヤンとしていたカベオもそれを見て、急いで続けて飛び込んだ。二人はついにケージカに辿りついた。

儒、仏。ケージカにはその二つがあった。儒には秩序、仏には中庸があった。見たこともないビル群があった。そこは人で溢れていた。重力があった。呼吸の際に肺に抵抗感があった。キールは意識を集中した。喫茶店、というところに行こう。マ、ク、ド、ナ、ル、ド、たしかそこに行けば良い。

決して見逃すな、全ては仕組まれている。キールは神経を尖らせ深い呼吸をした。カベオは記憶の一部を思い出し慌てた。マクドナルド、聞き覚えがある。美味しい物が食べられる場所だ。嬉しいな。お会計100円になります。そう言われ更に思い出す。この世界では金銭と言うものが必要だ。

キールとカベオは相談した。金銭を得る必要がある。カベオは通行人に土下座してお願いする事を提案するもキールが却下。キールのアイデアはこうだ。カベオの透明な体を利用して曲芸師としてオヒネリを稼ぐ。キールの指導のもと、いざ実行に移すとたちまちにお金が貯まった。

小鳥の鳴き声が止まない。寒さが二人を襲う。キールはマクドナルドでキャラメルマッキャートを頼んだ。カベオはクウォーターパウンドバーガーと水を頼んだ。店内は居心地が良く。壁にI'm loveing itという文言と、様々な人種の子供達の笑顔。キールとカベオは同時に思い出した。藤田田。

キールの頭痛が深まる。全て、何者かに支配されているのか?タ、バ、コ、たしかそれを吸って口から煙を吐いている集団の位置に秘密がある。キールは金融機関のアルバイトからポケットティッシュを無料で貰い、鼻をかんだ。ちゃんと片方ずつチンするんだよ。カベオはそう言った。

音が聞こえた。歌が聞こえた。タバコの煙を口から吐く集団の中に座り込む男がいた。キールはピンときた。この人にオヒネリをあげよう。男は微笑んだ後こう言った。俺の名前はマーク。記号を司る神の化身。君たちの仲間だ。もしかして下の名前はボラン?カベオが尋ねるとマークはシーッてした。

マークが呪文を唱えるとあらゆる物の価値がゼロになった。Google、Apple、Yahoo、NIKE、adidas、PUMA、Panasonic、SONY、victor、Amazon、スタジオジブリ、鳥山明、そして、任天堂!ファンファーレと共に地震が始まり雲が泳いだ。

キールはカベオの手を掴んだ。何が起こるの?マークはメンソールのタバコを吸いながら呟いた。お嬢さん、この世の全てをご覧に入れよう。仮面の旦那、くれぐれもその手を離さぬようにな。キールとカベオは黄色い電車の中に、いつの間にか、立っていた。乗客は全員ゼブラの頭に紳士服だった。

黄色い電車は遊園地に着いた。ゼブラの集団がキールとカベオを護衛する。赤い髪の男が二人を迎えた。ようこそ我が遊園地へ。また春に会いましょう。怯えるキールにカベオが声をかけた。大丈夫。この人はhideという名前。世界有数の音楽家だ。世界の子供達の為の基金を作ったんだよ。

キールとカベオはメリーゴーランドに乗った。普段はオマセなキールも、心の底からはしゃいだ。カベオはさっき食べたバーガーを戻しそうになっていた。その後もジェットコースター、ゴーカート、ミラーハウスを二人は楽しんだ。hideはにこやかに言った。お嬢さん、星を買いに行こう。

キールとカベオを護衛していたゼブラの集団に羽が生え、二人を導いた。hideが語る。仮面の男よ、どの星が良い?キールが言った。めい、おう、せい、冥王星が観たい。仰せのままに。hideとゼブラは二人は宇宙空間を疾走した。キールは我を忘れて喜んだ。カベオは空気が無い!寒い!とか考えた。

声が聞こえた。ケージより出でし者よ、是非我が銀河サーカスへ参りたまえ。太陽が燃え、視界が光に覆われる。目を開けるとそこには空中ブランコ、猛獣使い、ピエロ、豪華なサーカスが開かれていた。キールは初めて見るサーカスに胸を弾ませた。カベオは言った。あの綱渡りはきっと上手くいくよ。これは思い違いじゃないよ。

サーカス団のテントの支柱には難しい漢字が書かれていて、キールもカベオも読めない。団長の声が聞こえた。その字は孫悟空という名前の猿が書いた物で、天上天下唯我独尊と書いてあり、自分がこの世で一番偉いという意味である。猿はヒトに進化し、今や地球外へとその手を伸ばしている。愚かしい。

赤い髪の男、hideが語った。さあここまでは命有るものの次元の限界。お嬢さんが望むならさらに遥か彼方へと。カベオが制止した。キール、もう帰ろう。ママの所に帰ろう。キールは目を見開いた。ヒデさん、連れて行って。私は見てみたい。例え何があったって怖くない。パパに、パパに逢いたい。

キールとカベオ、そしてhideは光に包まれた。キールが目を開けると一人の男の姿が見える。hideが口を開く。彼の名前はアブラハム。全ての人類の父。アブラハムはキールを呼び寄せた。我が子孫よ。よくぞここまで来た。キールは照れながらいった。パパのパパのそのまたうんとパパ。初めまして。

アブラハムはキールに優しく語った。いいかい我が子孫よ、お前の父親はレインメイカー、雨の神様になったんだよ。雨が降ったらそれはお前の父親のお陰なんだよ。キールはいっぺんに全部を理解した。そして口を開いた。パパのパパのそのまたうんとパパ、私、雨の後のコンクリートの匂いが好き。

気がつくと空には虹が架かっていた。キールは父親に向かって手を合わせた。カベオはその背中を後ろから抱きしめた。アブラハムは言った。仮面の男よ、お前はよく頑張った。褒美に身体を授けよう。その娘の国の王となるが良い。共に平和を愛し栄たまえ。キールは言った。アブラハムさん、またね。

キールとカベオはケージを潜り元の世界に帰った。キールは言った。カベオ、仮面を取って顔を見せてよ。カベオは素直に従った。あら、凄くハンサム、バッチリだよ。キールはニコニコ笑った。十年後、二人は挙式をあげ、仲睦まじく暮らした。二人の治める国は盗人一人いない平和な国になったそうな。

立派な王様となったハンサムなカベオの横に、その妻となった王女のキールがいました。二人の国は今後一千年は続くでしょう。私達はその頃にはとっくにみんな死んでいます。みんなで二人の国の繁栄を祈りましょう。それではご拝読ありがとうございました。ごきげんよう。さようなら。

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