back新しい都 第3話 翌日の職場で男は切り出した。 「退職させていただきます。」 上司は意外と驚かずに粛々と手続きをしてくれた。一応理由を聞かれたので、執筆をするので、と答えた。 早まってしまった。新都社で漫画を描いても金は貰えない。退職?何故だ、なんで仕事をやめるんだ? 男は自分の行動に理由をつけようとした。わからない。俺は上手な漫画がかけない。金になるはずがない。 だが働いていると漫画を描く時間がない。漫画が描きたい。 そこまで考えて男は気づいた。 「俺は逃げたんだな。」 鬱陶しい職場から逃げて新都社に漫画をアップロードすることを選んだ。 コメントページを更新する 「ニートマンか、アメコミ的なの希望」 男は何が正しくて何が間違ってて何が自分の欲望なのかがわからなくなっていた。 続きを描く。ニートマンは人目を気にするので一定数以上の数の人間の視線を浴びるとパワーがなくなる。 必殺技はスタンガンでの電撃と警棒での打撃。如何に聴衆が集まるまでに悪者を倒すかが鍵となる。 第2話には敵組織の秘密結社ハローワークを出す。この世のニートを憎む怪人を町に送り込むのだ。 第2話をアップロードしたところでネットの友人のピエロから電話があった。 ピエロというのはこいつのハンドルネーム、ネット上で使う偽名だ。 ピエロは言った。 「ニートマン読んだわ。これ俺の事描いてるんでしょ?」 「違うよ。ピエロ自意識過剰だよ。」 「そうなんだ、凄いじゃん、漫画家になんの?」 「わかんねぇ。なりたいから仕事もやめたけど多分なれない。」 少し間を置いてピエロは言った。 「でもさ漫画描いてネットにアップしてたらそれはそれで誰かの利益になってるんだから立派な社会貢献じゃね?金稼げなくても続けなよ。」 ピエロのこういうところが気に入って長い付き合いなのだ。屁理屈のチャンピオンだ。 「今第2話アップしたらコメントついたわ、設定がしっかりしてて良い、だって。」 「才能あるんじゃない?頑張ってね。」 ピエロは作品の論評を少しして寝た。 面白かった。自分の作品に人から評価をもらうことが。仕事をしているときの評価と少し違う、自分の生身の肉体へのダイレクトな評価。 男は第3話を描いた。 |