back



新しい都

その男はインターネットで遊んでいた。男はパソコンで漫画を描き、それをインターネットにアップロードし、遊んでいた。

男は齢三十余り。独身。恋人無し。仕事は漫画とは全く関係ない事務職。

初めて漫画を読んだのは小学校に入る前。以来漫画の模写に励んだ。小学校一年生に入ると同時に大学ノートにシャープペンシルで漫画を描き始めた。

学校のクラスメート達は漫画にとにかく飢えていて、どんな体裁であれ学校で漫画が読めるとなると目の色を変えて群がった。漫画を学校に持ち込むことは禁止されていたけれど、大学ノートに描いた自作漫画はゆるされていたのだ。

漫画を描ける自分は人気者、中心的人物、尊敬の眼差しの対象。漫画はどんどん連載されてゆき、中学に入る頃には大学ノート二百冊にまでなった。

転機は中学一年の春。勉強に身を入れて欲しいと思ったからだろうか、単に邪魔なゴミだと思ったからだろうか、二百冊の漫画は燃えるゴミの日に全て処分された。

辛いとか苦しいとか泣きたくなるとか、そういった感情は不思議と起こらず、世の中とはそういうものだろうとだけ思い、以来漫画を描くのをやめ、勉強に励んだ。

男は大学時代にインターネットに出会った。知らない人たちの匿名の文章にたまらなく興奮した。男は早速自分でも何か書いてみたくなり、HTMLの書き方をフウフウ言いながら学んだ。

男の書く文章はインターネット黎明期のブログの流行以前の世界でそれなりに読者を獲得した。小学生の頃の漫画執筆の頃の創作の快感を思い出す。

仕事が忙しくなってからはネットの方はロム専、読む方専門になってしまった。仕事はやりがいがあり、ネットで得た知識が役に立たない事もしばしばあり、肥大した自意識がほどよく等身大になっていった。

そんな時に男はあるサイトに出会う。そのサイトは無料で漫画を投稿、閲覧でき、その利用者は日本で一番とのこと。

漫画、久しく描いていないが、まだ描けるだろうか?男はコピー用紙にボールペンで線を引いた。







その男はインターネットで遊んでいた。男はパソコンで漫画を描き、それをインターネットにアップロードし、遊んでいた。

サイトの名は「新都社」。

back

inserted by FC2 system