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大きな頭

生まれた時から頭が大きくてバランスが悪い。幼稚園の頃などはフラフラと倒れて頭から落ちていた。

小学校の頃は意識しなかったのだけど、中学に入って気がついた。それは、自分は学校の勉強が得意だという事だ。それと同時に自分はよく他人からイジメられるという事。

初めて出会った人とすぐに打ち解け、談笑し、お互いに秘密の話をし合ったりする。そこまでは良い。

いけないのは、他の人と仲良くなりたい時にはさっき仕入れたばかりの他人の秘密を暴露してしまう所だ。

それは自分なりのサービスのつもりだし、良かれと思ってのことなのだ。だけど秘密の漏洩は中学生にとって許されない重罪らしく、シカト、嘲笑、恫喝、などを喰らうハメになる。

思うに頭の回転が速いために学校の勉強が得意なのであって、回転数が高いまま間違った使い方をするからイジメの対象になるのだろう。

そんな自分も恋をした。

目が大きく、オデコ丸出しな、ちょっと唇が印象的な、スポーツが得意な女の子。名前は安野さん。

いつもの道化ぶりで、休み時間、会話をすることに成功した。こと仲良くしたい人と会話する時の自分といったら、それはまあ凄くて、休み時間一杯安野さんを笑わせていた。

なんと幸運な事に安野さんと自分は同じ塾に通うとのこと。やった。もらった。

塾では優等生で通っていた自分は、安野さんに良い所を見せようと、なお一層勉強を頑張った。結果、学年一番を何度も取るまでになった。

安野さんはいつも「すごいね」「どうやったらそんなに頭がよくなるの?」「イジメられてるみたいだね、でも気にしない方がいいよ」などと言ってくれた。

有頂天になった自分、自分にはもう安野さんしか見えていなかった。そんなある日。



いつも自分をイジメている連中に放課後呼び出された。恐怖で腹が痛くなりつつ向かうとイジメっ子に混ざって安野さんもいた。

何故?

イジメっ子が口を開いた。「オイ、お前にいい事を教えてやるよ。安野はな、俺のオンナなんだ。面白えからお前に色目使うように言ったんだよ。なあ安野?」「う、うん」安野さんがうつ向いて答えた。

イジメっ子はさらに続けた。「本当はお前のマヌケな動画でもネットにアップしてやろうかと思ってたけど、安野がもうウンザリして付き合ってられないって言うからここまでで許してやるよ。じゃあな。」

自分はあまりの事に呆然として意識が飛びそうになっていた。そんな、あんなに笑顔を見せてくれていた安野さんがそんな悪意に満ちた行為を行っていたなんて…。

イジメっ子が去ると安野さんと自分の二人になった。その時安野さんは口を開いた。

「あのね、あたし、ずっと君がイジメられているのを見て助けてあげたかったの。でもアイツと一応付き合ってて、でももう嫌になっちゃった。ここ最近君と遊んでて本当に楽しかった。ううん、ハッキリ言おう、あたしは君が好き。君もあたしを好き?もし好きなら付き合っちゃおう。」

自分は嬉しさと事の複雑さへの理解とで頭が混乱した。「こ…これもドッキリの一部…?だったりして…。俺は安野さんの事好きだけど…、ドッキリなんでしょ?」

そんな俺の唇を安野さんはキスで塞いだ。「どう、キスまでしたよ?これでドッキリじゃないってわかったでしょ?あたし達相思相愛だね。」



その後、自分と安野さんは周りに冷やかされつつ、それに対抗しつつ勉強にスポーツに頑張った。話してはいけないことをペラペラ話す癖は安野さんに指摘された後は頑張って矯正した。

自分が勉強を教え、安野さんもよく頑張り、めでたく県で一番の進学校に二人揃って合格した。

大きな頭はいつの間にか体に丁度良い大きさになっていた。この大きな頭は自分に災難ももたらしたけど幸運なことももたらした。安野さんは言った。「君は頭が大きいだけじゃなくて頭についてる顔だって凄く格好良いよ。」

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